終末の究極兵器「F22ラプター」の黄昏! [防衛]

世間では究極の戦闘機として喧伝されている、アメリカ空軍のF22ラプターの調達は、事実上なくなった。
最も「権謀術策」の得意なアメリカ政府のことなので、「サプライズ」が起きて、再び調達が再開されないという保障は何処にも無いが。

さて、一般の人には理解できないだろうが、戦術戦闘機という物は、アメリカの世界戦略上で言えば、一発の実弾を撃たなくとも、本当に役に立たなかろうが、存在意義が非常に大きい。
具体的に言えば、戦後アメリカ政府が欲しがった戦闘機は、煌めくばかりの最新技術をちりばめた、目のくらむほど高価な「究極兵器」としての戦闘機であった。

およそ現実と思えないほどの、まるでSFに出てくるような技術を実現して、生産して、調達することの出来る「国力」を世界中に見せ付ける為のものであって、物騒な話、実際の戦闘で、現場のパイロットが本当に必要とする「高い調達性、現実的戦闘能力、簡便な整備製性」がある「使える戦闘機」は、高い必要性があるのにもかかわらず、その調達が後回しにされてきた。

面白い話がある。
米空軍は、戦闘機に高価なコンピューターとセンサーを搭載して、自動で敵を撃退するスマートボムやミサイルを搭載した改良型のF16ファイティングファルコンや、F15ストライクイーグルを装備していったが、湾岸戦争などで、実際にイラクの地上攻撃に役に立ったのは、音速も出ない、マトモな夜間攻撃能力もない、30mmガトリングキャノン・・・つまり大口径の機関砲を搭載した、A10サンダーボルトⅡが、最も効果的な兵器であったと報告している。
にもかかわらず、既にA10は、その鈍足と全天候攻撃能力の欠如から、とっくの昔に生産中止されているというというのが現実という、非常に矛盾した物だった。

使える安価な兵器を買わないで、使えるかもしれないが、とんでもなく高価な兵器ばかり欲しがるというのがアメリカ軍の実態であって、その挙句、とうとう1機300億円という、ちょっとした性能のフリゲート艦が買えると言う、空前絶後の高価な戦闘機であるF22を開発して調達を続けてきたのだ。

ところがさすがのアメリカも、そんな高価な「オモチャ」をホイホイ変える状況ではなくなった。
というより、そもそもF22は、冷戦当時、ヨーロッパ正面(懐かしい単語だな)で、事実上ソ連軍であったワルシャワ条約軍との全面対決で、非常に強固なソ連軍の防空システムを突破して、制空権を確保する為に開発された戦闘機だった。

第三次中東戦争で、アメリカ製の最新戦闘機を装備したイスラエル軍が、レーダーを避け低空侵攻してきたところ、「ソ連式」の防空システムで、携帯式赤外線地対空ミサイルや、レーダー照準の対空機関砲「AAA」、レーダ誘導地対空ミサイルなどで幾層にもハリネズミのように張り巡らされた滞空陣地で待ち構えていたアラブ側の餌食にされてしまったことの反省から、逆転の発想で、「レーダーから隠蔽して高空から超音速巡航で進行する」という発想の元、F22の開発は始まった。

そのほかにワルシャワ軍の攻撃でズタズタにされた飛行場から、残った短距離の滑走路から飛び立てる能力や、複雑な電子制御システムの操作を、一人のパイロットでこなす為の、先進的なインターフェイスを備えたコクピットなど、およそ考えられる最新の技術を盛り込んだ戦闘機としてATF「アドバンスドテクノロジィファイター」という名前で当時開発が進められていた。

ところが状況は一変した。
敵であるソ連そのものが「解体」してしまい、そんな高性能な機種そのものの存在が危ぶまれるようになっていったのだ。
「その他」の国なら、既存の兵器で十分であり、事実、1970年代の戦闘機であるF15イーグルは、長いこと空対空戦闘で撃墜されておらず、無敵の世界最強の戦闘機の称号をほしいままにしていた。

その頃からATFは性格が変貌し、80年代に開発されたソ連のMig29やSu27、もしくはヨーロッパの第三世代の戦闘機である、仏のラファール、英独伊西共同開発のタイフーン、スウェーデンのグリベンも視野に入れた、世界最強の戦闘機を目指していった可能性がある。
競合試作で、従来のATFの思想に忠実に作られた、ノースロップYF23が落選し、「超音速巡航とステルス性能のあるF15」と揶揄されたロッキードYF22が採用されたことから、米空軍は「空対空性能」を重視していたことが判るのだ。

かくしてようやくF22として正式採用されるのだが、その頃から最大の敵は他の戦闘機ではなく、最強の最新技術の塊であるが故の「価格」が敵となってしまったのだ。
F15でさえ、80~100億という価格が、「戦闘機のロールスロイス」と揶揄され、本当は各国に買って欲しかったにもかかわらず、購入したのは、なんとしても勝ち続けなければならない宿命のイスラエルと、「原油」というお金が地下から沸いて出てくるサウジアラビアと、アメリカの子分で経済大国の日本だけという有様で、300億に届こうかというその価格に手を出そうな度と考えるのは、「マトモな神経を持った国」ならないはずだ。

で、マトモでない神経の持ち主である日本が、尻尾を振って欲しがった物の、今度はその最新テクノロジィが、軍事機密としてその流出を拒み、「売りたくとも売れない」というジレンマを抱えてしまった。

ちなみに日本に売らなかった最大の理由は、日本がかつて「FSX」として戦闘機を自主開発しようとしたとき、日本の航空産業の発展を阻止する為、F16改良型の共同生産である「F2」を押し付けた。
ところがアメリカは肝心な操縦系統のコンピューターソフトである「ソースコード」の提供を拒否して暗礁に乗り上げたが、日本側は独自で開発に成功してしまい、実はアメリカが考える以上の開発能力を日本が持っているということが、相当の「ショック」であったとされ、F22のライセンス生産であっても、たちまちその技術を奪われるのは確実と認識した事によると言われている。

かくして、敵対する戦闘機も存在せず、海外販売の夢も立たれ、生産規模拡大によるコストダウンも見込めなくなったF22に訪れたのは「生産終了」という結末だったのだ。

まあ、どちらにしても、最新鋭戦闘機同士がぶつかり合うというような、マニア垂涎の戦闘などは、現実的に起きる機会はほとんど無く、NGF(非国家軍隊)との小競り合いなら、安い戦闘機や戦闘ヘリコプターの数をそろえた方が有効であるし、貧乏な国家が大国に楯突くために、長距離弾道弾やNBC兵器をちらつかせて騒動を起こしたところで、戦闘機の出る幕は無い。

かくして高価な戦術戦闘機を、国家財政が傾くような国防予算で買う国家は存在せず、日米などの武器コングロマリットは、その稼ぎ頭を、「弾道弾防衛システム」に移行させており、もはや戦闘機が花形として世間を騒がせることはなくなるのかもしれない。


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kanchi

現代では最新鋭戦闘機同士のドグファイトは希有であり、ある意味その性能を向上させても意味がないとまで指摘する方もいらっしゃいますよね。

30年以上かけても設計性能にまったく追いつけていないミサイルディフェンスと一緒で、F22もMDも実戦で使えるか否かでなく、持つことの意味という兵器なのでしょうね。
by kanchi (2009-07-27 19:42) 

戦闘班長

仰るとおりで、MDも、現実的な防衛として考えた場合、あくまで「ポイントディフェンス」であり、雨霰の様にミサイルが降り注いだ場合どうにもなりませんし、「巡航ミサイル」に至っていは「処置無し」という有様です。

世界を牛耳る軍事超大国としての「威信」を保つ為には、こんなばかげた兵器が必要になるんでしょうね。
by 戦闘班長 (2009-07-27 20:06) 

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